Mabinology

diary

 私がくもだったのですね−−

 気がつけばそこは、色彩の枯れた高台であった。随分と自然の有様を呈し、長い長い草葉が砕けた墓石を地面に絡め取る。背丈のある雑草の合間をさまよう仲間たちは、みなが等しく頭上にSTRONG 白クモと看板を掲げ、等しく物言わぬ蜘蛛となった。彼らは何者なのだろう。形の見えない意思疎通の壁はくもを押しつぶさんとしている。耐え切れず辺りにシュコー、シュコーとうなってみるが、風に飲まれ落ち葉が帰ってくるのみであった。

 高台を囲う柵の向こうは一段低くなっており、底のほうから喧騒が響きスキルエフェクトが見え隠れする。そこから柵を避けて、ひときわ大きな影がぬらりと姿を現した。坂を上り、くもを目指して歩み寄って近づくごと、背丈の大きさにくもは怯む。視界設定の悪さで顔は拝めぬが、ばかっつらということだけは生来の感覚が告げた。これは人間という生き物で、後で知ったことだが、このばかっつらはさらにその中でも最悪の部類に入る種類の個体であるという。その最悪の口がもごもごと開閉し、何ぞ人の言葉を発した後、くもの全身は両手で力強く持ち上げられた。

 くもが背伸びをしても届かぬ高さから、眼下に高台の草々や白クモたちの世界を掌握したのも束の間、8本足をしてもなし得ぬ大きな2本足の速度を持って、くもの視界はただならぬ速度を得た。いよいよ目眩がくもを狂わす。糸ならず消化液が出そうである。高台を下るふわっとした浮遊感。初めて目にする道を使い捨てながら、喧騒のほうへと向かってゆき、やがて開けた石畳の上にくもは放られた。複目から火が出るような衝撃と、眩しいスキルエフェクトに飲まれ、終にくもはデッドリーに至る。

 そこからのことは上手く覚えていられなかったが、どうやらヒールによって一命を取り留めたということだけは後の話で知った。石畳の上で我に返っては茂みや高台へと逃げるが、どうもばかっつらの人間だけがくもを賢く見つけては再び持ち去る。この人間はAPの使い方を誤ってしまったらしい。慣れてしまえばさして困る危害でもないとし、やがてくもは諦めて、この人間の周辺に住むことにした。大きな肉が与えられれば美味い。時折は糸を吐いてやる。とはいえいつまで経っても苦手なものは苦手だ。普段は手の届きづらい場所で眠るのである。トヤロスームルク。

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